醪(もろみ)から搾られた原酒は、滓(おり)と呼ばれる細かな固形物が浮遊していて白く濁っています。この滓を取り除く作業を「滓引き(おりびき)」といいます。
さやかちゃん
サケ丸
実は、私たちが酒販売店やスーパーなどで見る無色透明の日本酒は、白く濁った日本酒を滓引きや濾過(ろか)と呼ばれる工程で不純物を徹底的に取り除かれています。
さやかちゃん
それでは、なぜ滓を取り除く「滓引き」の工程が必要なのでしょうか。
そこで本記事では、醸造工程の「滓引き」について、以下の3つを中心にご紹介します。
- 滓引きの目的や作業内容について
- 滓をあえて混ぜた「滓がらみ」とはどんな日本酒なのか
- 滓引きをしていないお酒「どぶろく」「にごり酒」の違い
本記事をご覧いただきますと、「滓引き」をしていない「滓がらみ」「どぶろく」「にごりざけ」の違いについてもご理解いただけると思いますので、最後までぜひご覧くださいませ。
目次
滓引き(おりびき)は上槽した後に残る白い浮遊物を取り除く作業
滓引き(おりびき)とは、醪(もろみ)を搾った後の液体(原酒)に残る白い浮遊物を取り除く作業のことです。
酒母に「蒸し米・米麹・水」を3回に分けて仕込み(三段仕込み)、糖化とアルコール発酵させたもの。発酵が進むと3~4週間で醪が完成し、搾ることで日本酒が抽出されます。
なお、醪(もろみ)の詳細は、「醪(もろみ)とは?|三段仕込みは多量の日本酒を造る伝統技術」でもご紹介していますので、あわせてご参照ください。
醪を搾り、液体(日本酒)と固形物(酒粕)に分離することを「上槽(じょうそう)」といいます。
上槽したばかりの日本酒は細かな固形物が浮遊していますので、貯蔵タンクで10日ほど静置して浮遊物をタンクの底へ沈殿させます。
すると、タンク上部の透きとおった上澄みと底の滓(おり)と呼ばれる沈殿物に分離されますので、上澄みを「上呑(うわのみ)」と呼ばれる取り出し口から抜き出し、別のタンクに移します。
この「別のタンクに移す作業」が「滓引き」です。
滓引きによって別のタンクに移された上澄みは、その後「濾過(ろか)」と呼ばれる工程でさらに微細な不純物が取り除かれます。
さやかちゃん
滓引き(おりびき)を行う2つの理由
滓引きは白い浮遊物を取り除くために行われることをご紹介しましたが、日本酒の味わいの面においては以下の2つの目的があります。
目的①:蔵人が目指す端麗でスッキリとした味わいのお酒するため
滓引き(おりびき)は、日本酒の味わいを調整するために行われます。
なぜなら、滓(おり)にはコクや旨味の元になるタンパク質やアミノ酸が多く含まれていて、これらの栄養素は多くなると雑味を感じるようになり、香りが抑えられてしまうからです。
蔵人が目指す端麗でスッキリした酒造りには、滓をしっかり除去する必要があるのです。
サケ丸
目的②:酒質を安定させ出荷時の香味のバランスを保つため
また、酒中に滓(おり)が残っていると、滓に含まれる酵母菌や酵素などの働きによって酒質が変わりやすくなりますので、出荷時の香味のバランスを長く保つように滓を取り除きます。
- 酵母菌 ⇒ 糖をアルコールに分解
- 糖化酵素 ⇒ デンプン質を糖に分解
- タンパク質分解酵素 ⇒ タンパク質を旨味成分(アミノ酸)に分解
スポンサーリンク
滓(おり)の正体は上槽で分離できなかった細かな「酒粕」
滓(おり)を辞書で調べると、以下の2つの意味が出てきます。
- 液体などの底にたまるもの
- 良い部分を取り除いて、残った不用の部分
日本酒の滓(おり)の正体は、上槽(じょうそう)の際に分離できずに残った細かな「酒粕」です。
酒粕には栄養素が豊富に含まれている
酒粕は美容や健康維持に効果がある栄養素を豊富に含んでおり、しかも様々な料理にアレンジできるため女性の間で人気の食材です。
滓(おり)はもとは酒粕ですので、酒粕に含まれている栄養素を同じように含んでいます。
- タンパク質:身体の筋肉や内臓、血液や骨など身体を構成する栄養素
- ペプチド:血圧の上昇を防ぐ
- ビタミンB1:疲労回復や消化促進
- ビタミンB2:美肌効果や健康な爪や髪を作る
- 葉用:貧血予防や赤ちゃんの先天性障害を減らす効果
酒粕に含まれる「コウジ酸」は美白効果がある
酒粕に含まれている「コウジ酸」は麹(こうじ)含まれる酵素で、メラニン色素の生成を抑える美白効果や、年齢とともに肌に蓄積する黄色いくすみを抑制するアンチエイジングの効果があるとされています。
- メラニン色素の生成を抑える美白効果
- 年齢とともに肌に蓄積する黄色いくすみを抑制する効果
滓(おり)を混ぜた日本酒「滓がらみ」は米の旨味とコクが楽しめる
「滓がらみ」は別名「滓酒」とも呼ばれ、上澄みの日本酒に滓を混ぜた日本酒です。
滓には旨味成分のアミノ酸類が豊富に含まれているため、一般の日本酒よりもお米の旨味やコクがあり、トロリとした口当たりが特徴です。
また、日本酒は酵母菌の活動を抑え品質を安定させることを目的とした「火入れ」と呼ばれる作業を行いますが、滓がらみはこの火入れを行わずに販売されていることが多いです。
そのため、酵母菌が生きたまま瓶詰さているため、アルコール発酵により発生する炭酸ガスの「シュワシュワッ」とした発砲感を楽しむことができます。
サケ丸
関連記事:滓酒(おりざけ)・滓がらみ(おりがらみ)とは?|にごり酒との違いや滓の栄養成分をご紹介
滓引き(おりびき)しない「どぶろく・にごり酒」違いは上槽にある
区分 | にごり酒 | どぶろく |
原料 | 蒸し米・米麹・水・酵母 | |
酒税法上の分類 | 清酒 | その他醸造酒 |
上槽 | 行う | 行わない |
滓引き | 行わない | 行わない |
滓がらみに似た白濁した日本酒に「どぶろく」と「にごり酒」があります。両者の違いは、醪(もろみ)を搾る上槽(じょうそう)を行っているか否かにあります。
醪を搾って液体(日本酒)と固形物(酒粕)に分ける作業のことで、酒税法の決まりで日本酒(清酒)を名乗るためには搾る(濾す)作業が必須となります。
なお、上槽の詳細は「上槽(じょうそう)とは?|搾り方(荒走り・中取り・責め)で変わる日本酒の味わい」でもご紹介していますので、あわせてご参照ください。
「どぶろく」は上槽を行わないで瓶に詰めた「醪の状態のお酒」で、お米の粒が口の中で感じられるほど込め本来のコクや甘みを感じることができます。また、醪を濾す(こす)作業を行っていないため、酒税法では「その他醸造酒」に分類されます。
一方、「にごり酒」は上槽の際に荒い酒袋でもろみを搾るため、酒中にお米の細かい粒が残り白濁したお酒になります。
にごり酒は、醪を濾す作業を行いますので、酒税法では「清酒」に分類されます。
さやかちゃん
関連記事:日本酒のどぶろくとは?|にごり酒・甘酒との違いや美容・健康効果を徹底解説
まとめ:「滓引き」によって日本酒は透明な酒に仕上がる
今回は「滓引き」についてご紹介しましたが、いかがだったでしょうか?滓引きには「味わいの調整」と「酒質の安定」の2つの目的があることをご理解いただけたかと思います。
また、あえて滓を残す日本酒「滓がらみ」は、適度に酒中に残された滓によってお米の旨味とコクを楽しめる1本です。要冷蔵となり保管が少し大変ではありますが、透明でクリアな日本酒と違った味わいを楽しめますので、ぜひ一度ご賞味いただければと思います。
- 滓引きとは、醪を搾ったあとの液体(原酒)に残る白い浮遊物をタンクの底に沈殿させ、透明な上澄みを別のタンクに移す作業のこと。
- 滓の正体は、上槽の際に分離できずに残った「酒粕」です。
- 滓は、もとは酒粕ですので、酒粕に含まれている栄養素(タンパク質、ペプチド、ビタミンB1、ビタミンB2、葉用)が同じように含まれている。
- 酒粕に含まれている「コウジ酸」は麹に含まれる酵素で、メラニン色素の生成を抑える美白効果や、年齢とともに肌に蓄積する黄色いくすみを抑制する作用がある。
- 滓にはコクや旨味の元になるタンパク質やアミノ酸が多く含まれているが、多くなると雑味を感じるようになり香りが抑えられてしまうため、端麗でスッキリした酒を造るためには滓をしっかり除去する必要がある。
- 酒中に滓が残っていると、滓に含まれる酵母の働きにより酒質が変わりやすくなるため、滓を取り除く必要があります。
- 滓がらみは「滓酒」はとも呼ばれ、上澄みの日本酒に滓を混ぜたお酒で、お米の旨味やコクがあり、トロリとした口当たりが特徴です。
- 酒税法では、にごり酒は上槽の際に醪を目の細かい酒袋で搾っているため「清酒」、どぶろくは醪を搾らずそのまま瓶詰めしているため「その他醸造酒」に区分されています。