日本酒は「清酒」とも言われれているように、「澄んだ透明なお酒」をイメージされる方が多いと思います。
さやかちゃん
サケ丸
実は、上槽(じょうそう)の工程で醪(もろみ)から搾られた日本酒は、酒粕や酵母などの固形物が浮遊して白く濁っています。
この固形物は「滓引き」で取り除きますが、「濾過(ろか)」では澄み切った無色透明なお酒に仕上げるために、微細な不純物が取り除かれます。
サケ丸
さやかちゃん
また、濾過は旨味成分の固形物を取り除く工程ですので、日本酒の味わいや香りの面で大きな影響を及ぼします。
そのため、醸造工程の終盤で行われる濾過は「見た目と香味」の両面でとても重要なのです。
そこで本記事では、日本酒造りの「濾過(ろか)」について、以下の2つを中心にご紹介します。
- 濾過(ろか)とはどのような工程なのか?
- 濾過(ろか)した酒と無濾過(むろか)の酒の味や香りの違い
- 無濾過生原酒(むろかなまげんしゅ)とはどのようなお酒か?
濾過(ろか)した酒と無濾過(むろか)の酒の違いを知ると、日本酒選びがもっと楽しくなりますので、最後までぜひご覧くださいませ。
目次
濾過(ろか)とは滓引きの後に残る「微細な固形物」を取り除く工程
濾過(ろか)は、滓引き(おりびき)のあとに残る微細な固形物を取り除く工程で、日本酒の無色透明な酒にするための脱色の役割や香味の調整を目的に行われます。
滓引きとは、醪(もろみ)を搾ったあとの液体(原酒)に残る白い浮遊物を10日ほどかけてタンクの底に沈殿させ、透明な上澄みを別のタンクに移す工程です。
なお、滓引きの詳細は、「滓引き(おりびき)とは?|透明感のあるスッキリとした日本酒は「滓引き」によって生まれる!」でもご紹介していますので、あわせてご覧くださいませ。
濾過(ろか)は3つの目的で行われる
濾過(ろか)は、以下の3つを目的に行われます。
- 多くの消費者が抱く「無色透明な日本酒」にする
- 雑味のない淡麗でサッパリとした味わいにする
- 酵母や酵素を取り除くことで酒質の変化を防ぐ
目的①:多くの消費者が抱く「無色透明な日本酒」にする
醪(もろみ)から搾られた原酒は黄色みがかった色をしていますので、これを無色透明にするために濾過が行われます。
酒母(しゅぼ)に「蒸し米・米麹(こめこうじ)・水」を3回に分けて加えて糖化(とうか)・アルコール発酵させたもの。発酵が進むと3~4週間で醪が完成し、搾ると日本酒を抽出することができます。
なお、醪(もろみ)の詳細は、「醪(もろみ)とは?|三段仕込みは多量の日本酒を造る伝統技術」でもご紹介していますので、あわせてご覧くださいませ。
一般的に、消費者は「日本酒は無色透明」というイメージを持たれている方が多いと思います。蔵元はこうした消費者が持つイメージに近づけるため、濾過を行うのです。
目的②:雑味のない淡麗でサッパリとした味わいにする
滓引き(おりびき)したあとの出来たての原酒はフレッシュで濃厚な味わいが特徴ですが、一方で個性が強く雑味が感じられます。
濾過で使う「活性炭素」は雑味成分を吸着する性質がありますので、雑味のないクリアな日本酒に仕上げることができます。
サケ丸
目的③:酵母や酵素を取り除くことで酒質の変化を防ぐ
「滓引き」を行ったあとの原酒には、酵母菌や酵素が含まれている細かな固形物が残っています。
酵母菌や酵素が残っていると時間の経過とともに発酵が進み、日本酒の酒質が変わる(劣化する)恐れがあります。
濾過(ろか)の工程では細かな固形物が取り除かれますので、日本酒の品質を長期間保ちやすくなります。
- 酵母菌 ⇒ 糖をアルコールに分解
- 糖化酵素 ⇒ デンプン質を糖に分解
- タンパク質分解酵素 ⇒ タンパク質を旨味成分(アミノ酸)に分解
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濾過(ろか)は2つの方法で行われる
濾過(ろか)は、以下の2つの方法で行われます。
それぞれの濾過方式には特徴があり、蔵人が目指す日本酒の味わいに応じて使い分けられます。
- 炭素濾過(たんそろか)
⇒粉末状の活性炭を原酒に投入して濾過器に通す方法 - 素濾過(すろか)
⇒原酒を珪藻土(けいそうど)やフィルターなどの濾過器に通す方法
方法①:炭素濾過(たんそろか)|「見た目と香味」の調整を行う
炭素濾過(たんそろか)は、多くの酒蔵で行われている濾過方法で、以下の効果があります。
- 着色成分を取り除き、無色透明なお酒にする
- 雑味成分を取り除く
- スッキリした飲み口のお酒にするための味わいの調整
- 老香(ひねか)と呼ばれる異臭を取り除く
活性炭素は搾りたての原酒特有の黄色みがかった着色成分を吸着する性質があるため、炭素濾過は透明度の高い酒造りに効果があります。
その他、雑味成分の除去やスッキリした飲み口のお酒にするなどの味わいの調整にも使われます。
サケ丸
方法②:素濾過(すろか)|原酒に残った細かな固形物を取り除く
素濾過(すろか)は、お酒をそのまま(素のまま)濾過器に通すため、このような呼び名が付けられています。
素濾過の目的は、原酒にわずかに残った細かな滓(おり)を取り除くことです。
一般的には、炭素濾過とセットで行われていることが多く、「素濾過⇒炭素濾過」の順で不純物の除去が行なわれます。
サケ丸
濾過(ろか)と無濾過(むろか)で変わる日本酒の味や香り
濾過と無濾過の日本酒は、味や香りに以下のような違いが生じます。
濾過(ろか)の日本酒|サッパリとした軽い口当たりが特徴
私たちが普段口にすることの多い濾過された日本酒は、サッパリとした淡麗な味わいが特徴です。
- にごりのない透明な色合い
- スッキリとした淡麗な味わい
- 軽い飲み口で口当たりが良く飲みやすい
濾過によってサッパリとした飲み口になりますが、原酒特有の雑味やどっしりとした重厚感のある味わいは薄れてしまいます。
サケ丸
無濾過(むろか)の日本酒|出来たての重厚感のある味わいが特徴
一方、無濾過の日本酒は、原酒ならではの重厚感のある濃い味わいが特徴です。
- 少しにごっていて黄金色をしている
- 味が濃く重厚感あり飲みごたえがある
- できたての繊細で豊潤な日本酒の味わいを楽しめる
濾過をした日本酒はサラッとした飲み口で、幅広い層に受け入れられる味わいに調整されていますが、日本酒通からすると少し物足りなさを感じることもあるかもしれません。
無濾過の日本酒は、フレッシュで荒々しいアルコールの刺激を味わえるまさに「玄人向けのお酒」といえるでしょう。
さやかちゃん
無濾過生原酒とは|醪から搾られた「素の日本酒」を味わえる
無濾過生原酒は、以下の3つの要素が満たされたお酒です。
- 無濾過(むろか)
⇒炭素濾過されていない(日本酒本来の濃厚な味わい) - 生酒(なまざけ)
⇒火入れされていない(生酒特有のフレッシュな味わい) - 原酒(げんしゅ)
⇒加水調整されていない(アルコール濃度が高く刺激的)
無濾過生原酒は、「火入れ」や「割り水」がされていないため、味わいのうえで以下のような特徴があります。
- 火入れしていないなめ生酒特有のフレッシュな香味がある
- 割り水していないためアルコール度が高くガツンとパンチの効いた味わい(一般的には15度前後だが原酒は20度前後ある)
- 割り水していないためお米の濃厚な味わいが楽しめる
無濾過の日本酒は、水を加えてアルコール度数を低くする「割り水」を行わない「無濾過生原酒」で出荷することが多いようです。その理由は、アルコール度数を高く保つことで、酒の劣化を生じにくくさせるためです。
サケ丸
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→日本酒の火入れとは?|生酒・生詰め酒・生貯蔵酒の違いは火入れの「回数」
→原酒とは?|加水しないことで味わえるパンチの効いた日本酒の飲み方
無濾過生原酒は「和らぎ水」と交互に飲むと二日酔を防いでくれる
無濾過生原酒はアルコール度数が一般の日本酒と比べて高いため、グイグイと飲んでしまうと二日酔いや悪酔いを引き起こす恐れがあります。
そこで、「和らぎ水」を合間に飲むことをおすすめします。和らぎ水を飲むことで体内のアルコール度数が低くなり、身体へのダメージを防ぐことができますので、ぜひお試しください。

さやかちゃん
まとめ:濾過(ろか)は不純物の除去だけではなく香味の調整も担う
今回は、醪(もろみ)を絞ったあとに行われる「濾過(ろか)」についてご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。
濾過は、日本酒を無色透明にするだけではなく、味わいの面でも淡麗で軽い口当たりの酒質にする効果があることをご理解いただけたかと思います。
また、炭素濾過や火入れ、加水調整を行っていない「無濾過生原酒」は日本酒通を満足させるフレッシュでガツンとしたパンチのある味わいを楽しむことができますので、気になった方はぜひお試しいただければと思います。
- 濾過は、滓引きのあとに残っているわずかな固形物を取り除く作業で、日本酒の香味の調整や無色透明な酒にするための脱色の役割を果たしています。
- 濾過は、「炭素濾過」と「素濾過」の2つの方法で行われます。
- 炭素濾過は、多くの酒蔵で行われている濾過方法で、着色成分を取り除いたり雑味成分を取り除くなどの目的で行われます。
- 素濾過は、原酒にわずかに残った細かな滓(おり)を取り除く目的で行われます。
- 濾過された日本酒は、にごりのない透明な色合いで、スッキリとした淡麗な味わいが特徴。
- 無濾過の日本酒は、少しにごっていて黄金色をして、味が濃く重厚感のある飲みごたえが特徴。
- 無濾過生原酒は、炭素濾過や火入れ、加水調整などがされていない日本酒で、高アルコール度数のガツンとパンチの効いた味わいと生酒特有のフレッシュな香味が特徴。