サケ丸
さやかちゃん
日本酒の醸造工程の中で「酒母造り(しゅぼづくり)」と呼ばれる工程があります。
日本酒は発酵した醪(もろみ)を搾ることによって抽出することができますが、酒母造りは醪の醗酵の原動力となる「酒母を造る工程」です。
酒母は別名「酛(もと)」とも呼ばれ、製法の違いによって「生酛(きもと)」「山廃酛(やまはいもと)」「速醸酛(そくじょうもと)」の3種類に分類されます。
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そこで本記事では、日本酒のアルコール醗酵のもとになる「酒母」について、以下の2つを中心に解説いたします。
- 日本酒造りで酒母が果たす役割とは?
- 生酛・山廃酛・速醸酛の違いとは?
酒母の違いによって、出来上がる日本酒の味わいや香りも変わりますので、ぜひ最後までご覧いただきまして、日本酒選びの参考にしていただければ幸いです。
目次
酒母とは|醪(もろみ)発酵の原動力となる酵母を培養した液体
酒母(しゅぼ)とは、「米麹・水・乳酸菌(速醸酛の場合に限る)」を混ぜて「水麹(みずこうじ)」を造り、そこに「蒸し米・酵母」を加えたものです。
酵母は酵母を大量に培養することで、醪(もろみ)発酵の原動力となります。
なお、醪については、「醪(もろみ)とは?|三段仕込みは多量の日本酒を造る伝統技術」で詳しくご紹介していますので、合わせてご覧くださいませ。
「一麹、二酛、三造り」から見た酒母造り|麹造りに次ぐ重要な工程
酒母は「酒の母」と書きますが、「お酒のお母さん」だけに酒母がないと日本酒を造ることができません。
また、日本酒造りで重要な3つの工程を表した「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんずくり)」という言葉がありますがご存知でしょうか。
- 一麹(麹造り)
⇒良い麹を造る - 二酛(酒母造り)
⇒麹を使って酒母で優良な酵母を育てる - 三造り(醪造り)
⇒酒母を倍々に増やしながら良質な醪を造ればあとは搾るだけ
「良い麹を造り、次に酒母で優良な酵母を育てる、そうすれば必ず良質な醪(もろみ)が出来上がる」という、酒造りの重要な工程の順に表したものです。
この言葉からも、酒母造りは麹造りに次いで重要な工程であることが分かると思います。
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酒母造りの役割とは|優良で元気な酵母を大量に純粋培養する
酵母は醪(もろみ)の中で糖をアルコールと炭酸ガスに変えますが(アルコール発酵)、たくさんのアルコールを生み出すためには大量の酵母が必要になります。そこで酒母では、アルコール発酵に必要な優良な酵母を大量に純粋培養します。
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酒母造りは「微生物の特徴」を巧みに利用して酵母を培養する
「蒸し米・米麹・水」を酒母用タンクに仕込むと、米麹が出す酵素によりお米の「デンプン」が分解(糖化)されて酵母のエサとなる「糖」に変わります。
すると、空気中に存在する雑菌や野生酵母が酒母用タンク内に入り込み徐々に繁殖し始めます。
雑菌の特徴|雑菌は酸性の環境に弱い
そこで登場するのが「乳酸菌」です。雑菌や天然酵母は酸性に弱いため、乳酸菌を増やして酒母用タンク内を酸性にすることによって雑菌の繁殖を抑えることができます。
こうして酒母用タンク内は乳酸菌と糖の天下となり、ここで晴れて「酵母」が投入されます。
雑菌は酸性に弱いため、乳酸菌の増殖により死滅する
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酵母の特徴|酵母は雑菌よりも酸性の環境に強い
酵母菌は乳酸菌に強い性質があるため、その後酒母の中で酵母菌は糖を食べて凄まじい勢いで増殖します。このようにして出来た酒母は、醪(もろみ)の発酵に必要な良質な酵母を大量に備えた状態となるのです。
酵母は雑菌に弱く酸性に強いため、雑菌のいない環境で酵母は爆発的に増殖する
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乳酸菌の取り込み方の違い|酒母は「速醸酛・生酛・山廃酛」の3種類
酒母は「蒸し米・米麹・水・乳酸菌(速醸酛の場合に限る)」を混ぜ合わせたものに「酵母」を加えることで、15日から1ヶ月程度で完成します。
乳酸菌は空気中から入り込む雑菌の繁殖を抑えますが、この乳酸菌をどのように取り込むかによって、酒母は「速醸酛」「生酛」「山廃酛」の3種類があります。
生酛(きもと):天然の乳酸菌を培養する伝統的な製法
生酛は江戸時代に考案され明治時代中期まで主流だった昔ながらの製法で、天然の乳酸菌を培養するのが特徴です。
雑菌による腐造のリスクを常に背負いながら高い技術で日本酒造りを行わなければならないため、酒母が出来上がるまでに1か月程度かかるとされています。
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山廃酛(やまはいもと):生酛の「山卸し」廃止した製法
山廃酛は生酛で行われる「山卸し(やまおろし)」と呼ばれる作業を廃止した製法です。天然の乳酸菌を培養するなど、その他の製法は同じであるため、山廃酛と生酛は兄弟のような間柄です。
「山卸し(やまおろし)」とは、桶(おけ)に入れた蒸米・米こうじ・水を蕪櫂(かぶらがい)という道具を使ってお粥状になるまですり潰す作業です。この作業は、蔵人2~3人掛かりで冬の寒い時期に深夜から早朝まで行われる重労働です。
ところが、明治時代末期に山卸しをしなくても麹から溶け出した酵素の力で米が溶けることが分かり、次第に「山卸し」を「廃止」した「山廃(やまはい)」が採用する蔵が増えました。
速醸酛(そくじょうもと):人工の乳酸菌を添加する現代的な製法
速醸酛は、酒母に人工の乳酸を添加して雑菌の繁殖を防ぎながら酵母を培養します。
生酛や山廃酛のように天然の乳酸菌を育てる必要がないため、酒母が出来上がるまでに15日程度に短縮できます。
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関連記事:生酛造りと山廃造りの違いとは?|日本酒の酒母造りから両者の違いを解説
まとめ
今回は日本酒の「母」とも言える「酒母」についてご紹介いたしましたが、いかがだったでしょうか。酒母の種類(生酛酛・山廃酛・速醸酛)によって出来上がった日本酒の味わいもずいぶん変わってきますので、いろいろと飲み比べても楽しいかもしれませんね。
- 酒母(しゅぼ)は別名酛(もと)ともいわれ、蒸し米・米こうじ・仕込み水を混ぜたものに酵母を加えて大量に培養したもの。
- 日本酒造りで重要な3つの工程を表した「一麹(いちこうじ)、二酛(にもと)、三造り(さんずくり)」という言葉があり、酒母造りは麹造りに次いで重要な工程である。
- 酒母は乳酸菌をどのように加えるかによって速醸酛・生酛・山廃酛の3つに分類される。
- 速醸酛は近年販売されている日本酒のおよそ9割が採用している製法で、酒母に人工の乳酸を添加して雑菌の繁殖を防ぎながら酵母を培養するのが特徴。
- 生酛は昔ながらの製法で、天然の乳酸菌を繁殖させるのが特徴。
- 山廃酛は生酛の中の「山卸し(やまおろし)」を廃止した製法。